藪柑子
垢、垢、汚れ。―どこに行っても救いがない。
垢、垢、穢れ。―だれに聞いても意味がない。
垢、垢、塗れ。―なにに笑っても理由がない。
藪の中に天国があった。―聞いて、聞いて。
腐った蜜柑に奇跡があった。―食べて、食べて。
子供の夢に色彩があった。―見てよ、見てよ。
頭の中まで、頭の中まで、砂糖みたい。
ここは天国、夢の国。
王子様ったら野暮ったれ。
どうして途中で起こしにくるの?
私の正義に迷いはない。
迷うべきではないのだと、そう設定されたから。
天から舞い降りた、光のように。
そう決められたから。
そう言ってもらえたから。
合成された暴力ゆえに、暴力的な児戯ゆえに。
それは誰にも止められない。
人魚姫のようだと、そう言ってもらえた。
磯の匂いの所為かもしれない。
幻滅の光が、物語を鮮やかにする。
悲哀の涙こそが、夢の色彩なのだ。
残虐で、卑屈で、頼りにするのは魔法の杖のみ。
依存、依存、それは虚妄。
惨劇なり。
貝殻を耳にあてて、なにを聴くのだろうか。
廃墟に目を凝らして、なにを描くのだろうか。
失くした美を復活させたいのだろうか。